家に帰ると、自分の部屋に直行し、机の引き出しを開けた。
探していた物はすぐに見つかる。

「あった。パスポート」

有効期限を見るとまだあった。

「春音、帰ったのかい?」

クローゼットから旅行鞄を出して、洋服類を詰めていると、おばあちゃんが部屋まで来た。

「何してるんだい?」
「ちょっと出てくる」
「どこに?」
「ロサンゼルスに」
「はあ?」

おばあちゃんが不審そうに眉を寄せ、すぐに厳しい表情をした。

黒須(あの男)と行くのかい?」
「おばあちゃんには関係ないでしょ」

説明をしている暇はない。今は一刻も早く空港に行かなきゃ。

「あの男に関わってはいけないって言っただろ!」

おばあちゃんがひったくるように旅行鞄を奪った。

「行かせないよ。あの男と関わるとろくな事がないからね」
「行かせてよ!黒須が大変なの!すぐに行かなきゃいけないの!」

おばあちゃんの手にある鞄を引っ張った。

「何言ってんだい!ダメだって言ってるだろ!」

鞄の引っ張り合いになる。
こんな事をしてる場合じゃないのに。

もう鞄はいらない。
パスポートを仕舞ったいつものリュックを掴んで部屋を飛び出た。