大嫌いの先にあるもの

念の為、入口係のスタッフに春音が来たらバーに通して欲しいと伝え、カウンター席で飲み直した。

ライブは終わり、余韻を楽しむように談笑する人たちの姿があった。
BGMにはジャズのスタンダードナンバーが流れている。
それに耳を傾けながら、ゴットファザーを飲み干し、二杯目は日本の銘柄のウィスキーをストレートでちびちびとやった。

春音の事が気になり、5分に一度は腕時計を見た。
行った事はないが、春音がどこに住んでいるかは大学で調べて知ってる。

3、40分もあればここまで来れるだろう。
しかし、酔ってたのが気になる。

もう夜の10時近くになる。
酔った女の子が一人で繁華街に来るのは危険ではないのか?
どうしてタクシーに乗る事を勧めなかったのか。
春音はきっと地下鉄を乗り継いで来るだろう。
だったら駅まで迎えに行った方がいいのか。

「圭介、聞いてる?」

いきなり話しかけられてハッとする。
隣の席に愛理が座っていた。
先ほどステージで見た肩の出た赤いドレス姿のままで。
印象的な大きな目は不機嫌さを表すようにこちらを睨んでる。