大嫌いの先にあるもの

「あんたがデヴィッドを探している日本人?」

ロスに来て5日目、ウエストハリウッドのバーで聞き込みをしていたら、金髪の若い女にそう声をかけられた。

「君はデヴィッドの知り合いか?」
「キャサリンよ。まあ、デヴィッドとは親しいかな」
やっと手がかりをつかんだ。

「デヴィッドがどこにいるか教えてくれないか?」
「あんた、お金持ってそうね。ブランド物のスーツなんか着ちゃって」

女がガムを噛みながら値踏みするような目でこっちを見た。
僕と同じぐらいの身長で、色白で爬虫類系の堀の深い顔立ちをしていた。美人の分類には入るかもしれないが、少しごつい。

春音のような可憐さが少しもない。こういう女性は苦手だ。

「お礼なら君が欲しいだけやろう」
「本当に?じゃあ、1万ドル(100万円)でどう?」
「いいだろう」
「前金でまずいくらかちょうだい」
「小切手を切ろうか?」
「銀行に行くのが面倒。現金がいい」

長財布の中を見ると100ドル紙幣が20枚入っていた。
女が横からさっと僕の財布をかすめ取った。

「お、おい」
「いっぱい入ってるのね」
財布の中を女がニタニタと見ている。

「とりあえず、これでいいわ」
札入れに入っていた札を全部抜き取ると、女は財布を僕に放った。

「残りはデヴィッドに会った時に払って」
「君がちゃんと連れて行ってくれるなら」
「キャサリンよ」
キャサリンと視線が合う。よく見ると珍しい琥珀色の瞳をしていた。最近、その瞳をどこかで見たような気がしたが――。

「わかった。キャサリン。僕は黒須だ」
「クロス、ついて来て」
背を向けたキャサリンがおいでと合図するように人差し指を折って前後に動かした。

――危ないと思ったら身を引いて下さい。
相沢の苦言を思い出したが、今はキャサリンについていくしかなかった。