大嫌いの先にあるもの

「僕の事が怖いという事か?」
「うん、ちょっと怖くなっちゃった」
「何かしたか?」
「えーと、あの……キス」
「キス?」
「日曜日の夜に会った時、深いのしたでしょ」
そう言えば僕以外の人とは結婚したくないと言った春音があまりにも愛しくてソファに押し倒した。

「ごめん。あれはその……春音が可愛くて、つい」
「いいの。あのキスで付き合うって事がどういう事か気づいたから。私、黒須と付き合うのに何の覚悟も出来ていなかった」
話しの流れがマズイ方に行っている気が……。

「覚悟が出来ていないから、僕とはもう別れたいと?」
春音の言葉を先回りするように口にした。そう思っていたら、付き合う事を説得するつりだった。

電話越しに重い沈黙が流れ、鳩尾の辺りが緊張で圧迫される。

「違うよ。別れたいなんて思ってないよ。もう黒須のバカっ!なんでそういう事言うの!」
怒った声に春音の険しい表情が想像できる。春音が普通に接してくれるようになったのは最近だから、そっちの顔の方が馴染み深い。

「その怒りは僕と別れるのが嫌って事か?」
「当たり前じゃない。何年黒須に片思いしたと思っているのよ」
甘い言葉にキュンとする。やっぱり春音は可愛い。
目の前にいたら抱きしめている。

「春音、好きだよ」
素直な気持ちが自然と言葉になった。