大嫌いの先にあるもの

仕方なく電話に出ると、沈んだお父さんの声がした。

「春音、今日はお疲れ様でした。それからお母さんの事では申し訳なかった。夏目社長があそこまでお母さんのファンだって知らなかったんだよ。お父さん、あの場では笑って済ませる事しかできなく本当にごめんなさい」

お父さん、気にしてくれていたんだ。

「本当にごめん」

黙っていると、お父さんの謝罪の言葉が続く。

「もう済んだ事だし、そんなに謝らなくても大丈夫だよ」
「本当か?」
「うん。お母さんの事はちょっと嫌だったけど、でも、お父さんに会えて楽しかったよ」

夏目社長たちが来るまでは本当に楽しかった。
お父さんの仕事の事とか聞けて。

「春音は本当にいい子だな」

涙ぐむような声が聞える。
お父さん、こんな事で泣いてる?

「そうだ、春音。奏太さんはお母さんのファンじゃないから安心しろ。春音にちゃんと興味を持ってくれたからな。お父さん、春音がお母さんの話をするのが嫌だって事は奏太さんにちゃんと伝えたからな」

お父さんの声が急に嬉しそうに弾んだ。
私に興味を持つ?え?奏太さんに伝えた?

お父さんの言っている事に頭の奥がこんがらがっていく。

「結婚は春音が大学を卒業した後でいいと言っていたから。一応結婚を前提としたお付き合いになるが、ゆっくりと互いを知り合う時間はあるから安心しなさい」

け、結婚!?

「ちょっと、お父さん!」