大嫌いの先にあるもの

「あ、あの、黒須……」

お見合いの事、ちゃんと言わなきゃ。変な誤解されたくない。
そう思うのに、見つめる黒須の目がどんどん険しくなってきて言葉が出て来ない。

「あのね、あの……」
「何?」

声は優しいけど、こっちを見る目が怖い。
黒須の手料理を納めた胃袋が緊張して、冷たくなっていく。

早く謝らなきゃ。
早く、何か言わなきゃ……。

「あの男と会った事はそんなに言いづらい事?そういえば親し気だったな。手なんか繋いでいて。もしかして彼氏?」

彼氏って言葉が胸をえぐった。
黒須からそんな言葉が出るなんて酷い。私が好きな人は一人なのに。

「違う、そんなんじゃ」
「前に言ってたじゃないか。恋人の一人ぐらいいるって」

あっ……。

言ったかも。

恋を知らなきゃ大人になれないよって、黒須に言われたのが、なんか悔しくて。

目が合うと、失望したように黒須がため息をついた。

「本当に恋人なのか?」
「ち、違うよ」
「じゃあ彼は何?」

黒い瞳がさらに厳しくなっていく。そんな目で見られた事ないから怖い。

「彼は……」

お見合い相手。そう口にしようとしたタイミングでテーブルの上の私のスマホが鳴った。

今はそれ所じゃない。

「黒須、彼はね」
「出た方がいい」

黒須が私の言葉を遮るように言い、スマホを差し出した。
画面を見ると“父”と出ていた。