大嫌いの先にあるもの

お料理を食べ終わった後は、リビングのエル字型の大きな革ソファに腰を下ろして、私が持って来たギネスの黒ビールを黒須と一緒に飲んだ。

エプロンを外した今日の黒須の服装は濃いグレーのカットソーに藍色のジーンズを合わせていて、お洒落カジュアルって感じがする。スーツの時と違って眉毛の位置にくるぐらいの長い前髪が額にかかっていて、普段よりも色気みたいな物が漂っている。

見慣れない姿につい視線がいってしまう。
一人分離れた右隣に座っている黒須に何度も視線を向けていたら、黒い瞳と目が合った。

「何?」
黒須が穏やかな声で聞いた。

「スーツじゃない黒須が珍しいと思って」
黒須がああっと言って、自分の服装に視線を向けた。

「スーツの方が良かったかな?」
こっちを向いた黒須に向けて「ううん」と首を振り、「こっちも素敵」と正直な感想を口にした。

「ありがとう。春音も可愛いね、そのシャツワンピ」
不意に褒められて嬉しい。私の服、見てくれていたんだ。
黒須の方を見ると、ふんわりとした優しい笑顔があった。

甘い表情にお腹の奥がキュンとする。私を見つめる瞳がいつもよりも優しい気がするのは、やっぱり両想いになったからなのかな。