大嫌いの先にあるもの

一度家に帰り、着物から大柄の紺白チェックのシャツワンピに着がえてから黒須の家に向かった。

膝ぐらいのスカート丈が落ち着かなかったので、迷いに迷って下はスキニージーンズは履いた。

私なりに女の子らしい感じにはしたけど、黒須はどう思うだろ?少しは可愛いって思ってくれるかな?いつもはジーンズにTシャツだったから、急にやり過ぎたかな?

そんな事を思いながら、そわそわとした気持ちで約束した夜7時に黒須の家のインターホンを押した。

紺色のエプロン姿の黒須が出て来た。
顔を見た瞬間、ほっとして抱き着きたくなる。実際に抱きつく度胸はまだないけど。

今日がいろいろあった一日だったから、甘えたいのかも。

「春音、よく来たね。あがって。丁度、料理の仕上げをしていた所なんだ」

黒須が忙しそうに奥へ進む。それに続くように「お邪魔しすます」と一応、声をかけてから中に入った。

食欲をそそる美味しそうな匂いがしていた。
ダイニングテーブルまでいくと、黒須がキッチンから声をかけた。

「楽にしてて、今準備するから」
そう言われても、少しは手伝いたい。私のリクエストに応えてもらっているんだから。

「座ってていいのに」
エル字型の広いキッチンに立つと、菜箸を持って盛り付けをしている黒須がこっちを見た。

一日ぶりに見た黒須は相変わらず素敵で、胸がドキドキしてくる。まだ信じられない。黒須と両想いになったなんて。

「食器棚からお皿ぐらいは出せるよ」
「春音に任せると割りそうだから遠慮しとく」
いつもの憎まれ口が今日は甘い囁きに聞こえてニヤニヤしちゃう。

「そこまでドジじゃないもん」
「そうかな」
目が合うと黒須がクスクス笑った。

癒されるな、黒須の笑顔。奏太さんの笑顔も可愛かったけど、レベルが違い過ぎる。黒須の笑顔を見ると幸せでいっぱいになって、好きで堪らないって気持ちになる。

「黒須」
「何?」
「大好き」
私の言葉に笑顔を浮かべてくれると思ったら、黒須は無表情なまま視線を逸らして、何も言ってくれない。

照れてるのかな?