大嫌いの先にあるもの

「そんなに困った顔しないで。取って食いはしないから」
奏太さんがクスクスと笑った。

「実はね、春音ちゃんの事は知っているんだ」
「えっ」
初対面じゃないの?

「少し話せないかな?ケーキが無理ならコーヒーぐらいはどうかな?」
奏太さんがじっとこっちを見下ろす。
早く立ち去りたいけど、どこで会ったのかが気になる。

「わかりました。コーヒーぐらいなら」
「良かった。じゃあ行こうか」
奏太さんが私に近づくと、左手を握って来た。

「あ、あの」
戸惑っていると、「行こうか」と言って、私の左手を握ったまま奏太さんが歩き出した。

えっ、手をつないだまま歩くの?

「春音ちゃん、どうしたの?」
奏太さんがにこやかな表情を浮かべた。
そんな顔を見ると、手を離してとは言えなくなる。

「い、いえ」
「一丁目の方に行くけどいい?」
「あ、はい」
奏太さんと手をつないだままホテルを出て銀座一丁目方面へと向かった。
優しいけど、奏太さんは強引かも。

困ったな。もしも偶然黒須に会うような事があったらどうしよう。