「いやぁ。春音さんは本当にお母様に似て美しい」
テーブルの向かい側に座った夏目社長が興奮したようにそう言ったのはこれで20回目だろうか。
お料理は牛フィレ肉とフォグラをパイ包みにしたメインまで来ていたけど、食欲は完全にない。母の事を言われる度に胃が痛くなってくる。
「私は星野さゆりさんのドラマが大好きで」
社長がまた嬉しそうに同じ話を繰り返した。
星野さゆりは母のペンネームだ。脚本家の母はそれなりにヒット作もあって世間に名前も顔も無駄に知られている。
私に会いたかったのは、母のファンだったからだ。じゃなきゃ、普通の大学生の私に大手楽器メーカーの社長さんが興味を持つなんておかしい。
“星野さゆりの娘”
子どもの頃からそう言われるのが嫌だった。
母の事がバレれば、サインをねだられたり、家ではどんな風に過ごしているのかとか、どんなお母さんなのかとか、しつこい程聞かれて来た。
一緒に暮らしていないから聞かれても困るし、答えないともったいぶってるって思われるし、かと言って嘘をつくのも嫌だしで、母の事を聞かれるのが憂鬱だった。
まさか今日、こんな酷い目に遭うなんて……。
お父さんを見ると、楽しそうに社長さんと談笑している。
そんなお父さんに腹が立つ。
私がお母さんの事言われるの嫌いだって知っているくせに。
早く終わらないかな。黒須に会いたい。
テーブルの向かい側に座った夏目社長が興奮したようにそう言ったのはこれで20回目だろうか。
お料理は牛フィレ肉とフォグラをパイ包みにしたメインまで来ていたけど、食欲は完全にない。母の事を言われる度に胃が痛くなってくる。
「私は星野さゆりさんのドラマが大好きで」
社長がまた嬉しそうに同じ話を繰り返した。
星野さゆりは母のペンネームだ。脚本家の母はそれなりにヒット作もあって世間に名前も顔も無駄に知られている。
私に会いたかったのは、母のファンだったからだ。じゃなきゃ、普通の大学生の私に大手楽器メーカーの社長さんが興味を持つなんておかしい。
“星野さゆりの娘”
子どもの頃からそう言われるのが嫌だった。
母の事がバレれば、サインをねだられたり、家ではどんな風に過ごしているのかとか、どんなお母さんなのかとか、しつこい程聞かれて来た。
一緒に暮らしていないから聞かれても困るし、答えないともったいぶってるって思われるし、かと言って嘘をつくのも嫌だしで、母の事を聞かれるのが憂鬱だった。
まさか今日、こんな酷い目に遭うなんて……。
お父さんを見ると、楽しそうに社長さんと談笑している。
そんなお父さんに腹が立つ。
私がお母さんの事言われるの嫌いだって知っているくせに。
早く終わらないかな。黒須に会いたい。



