Blue&Devilを辞めたい。そう相沢さんに電話した。ピアノの修理代はおばあちゃんのお金でもう清算してあったけど、お店を辞める事は保留にしてあった。

相沢さんに休みをあげるから、店に残るかどうかを考えて欲しいと言われていた為だ。

しかし、いくら考えても黒須のいる店で働くなんて無理だ。気持ちをぶちまけてしまった黒須とはもう会えないし、愛理さんの姿を見るのも嫌だ。

電話でその事を伝えると、退職の手続きをするから今日の午後3時15分に店に来て欲しいと言われた。その時間だったら黒須は店にいないと言われてほっとした。

バーに行くとカウンターの所以外、照明が落ちていた。
店がまだ開いていないからだろう。きっとカウンターの所で待っていろって事だよね。

カウンターの側までいくと、カウンターの下でしゃがんでいる相沢さんが見えた。何か探し物でもしているんだろうか?

「相沢さん、何やっているんですか?」
声をかけると、相沢さんが背を向けたままゆっくりと立ち上がった。
今日は紺色のスーツ姿だった。

後ろ姿が黒須に似ている。
いつも似てるなって思っていたけど、今日は特にそう感じる。

急に涙が滲んだ。
弱ってるな。黒須の事を考えると最近、すぐこうなる。

「あの、相沢さん、そのまま聞いてもらえますか?」
泣き顔を相沢さんに見られたくなかった。