大嫌いの先にあるもの

「会うべきなのはわかっているんです。その方がいいって思うんです。だって社長の息子ですよ。上手くいったら玉の輿ですよ。将来安泰ですよね。若さぐらいしか取り柄がないんだから、もらってくれる人がいたら、早めにもらってもらった方がいいっておばあちゃんも言ってるんです」

力なく笑った春音の声が胸に刺さる。
その声は助けてと言っているように聞こえた。

「写真も見せてもらったんですけど、これがけっこうカッコイイんですよね。それに優しそうな人だし。私にはもったいないぐらい、いいお話で、実は昨日、父に会うって返事をした所なんです。そしたら先方も早い方がいいって言ってくれて、それで明日会う事になったんですけど、なんか急に、怖くなっちゃって……」

明日会うだと……。
急に肺の奥が苦しくなった。鳩尾のあたりが締め付けられ、真っ黒な感情が腹の中で暴れ始める。このヤキモキしている感情は……嫉妬か?

春音が会うという男に対して嫉妬してるのか?

「あの、黒須はどうしてますか?きっと世話のかかる同居人がいなくなって、ほっとしてますよね。私、料理下手でほとんど黒須に作ってもらってたから」

ほっとなんかしていない。
春音が隣にいてくれないから夜なんて全然眠れないんだぞ。

振り向いてそう言ってやりたい。
なのに金縛りにあったように動けない。

顔を合わせるのが怖い。
春音の声を聞いただけで、胸の奥が熱い。鼓動がどくどくと信じられない速さで打っている。顔なんて見たら、きっと心臓が壊れてしまう。

「なんか、いろいろとまとまらない話をしてしまいましたが、少しスッキリしました。では、相沢さん、制服ここに置いておきますね。短い間でしたけど、お世話になりました」

春音の気配が遠ざかった。
出入口に向かう靴音が聞こえる。