「まだ何かある?」

雇用契約書をじっと見ていると黒須に言われた。

何かあるに決まってる。

やっぱりこんなの納得いかない。

酔っぱらった勢いで署名した雇用契約書を持ち出してくるなんて、きっと魂胆があるはずだ。

素面じゃ絶対に署名しないから、沢山をお酒を飲ませて書かせたに決まってる。

黒須は卑怯だ。

えーい!こんなもの、ビリビリに破いてやる。

「ピアノの修理代は給料から天引くから」

用紙を切ろうとして手が止まる。

え?修理代?

瞬きしてると、黒須が悪魔的な笑みを浮かべた。

「まさか覚えてない?」

コクリと頷いた。

「バーにあるグランドピアノに昨日、春音が飛び乗って壊したんだよ」

「ピアノの上に乗った?」

パチクリと数回、瞬きをする。

「ピアノの天板の上に乗って、ノリノリで踊ってたよ」

黒須が拳を口元にあて、クックックッと楽しそうに笑う。

「春音は酒癖が悪いね。今後は気をつけた方がいい」

全く記憶にない。
ピアノの天板の上に乗るなんて……。

そんな馬鹿な事を本当にしたんだろうか。