大嫌いの先にあるもの

二重の目が驚いたようにこっちを見ていた。目が合うと、困ったように逸らされた。

やっぱり私の事なんて、恋愛対象として見ていない。
これで黒須の気持ちはわかった。

この恋はもう終わりにしよう。

「安心して。今は黒須の事大嫌いだから。ひき止めても無駄だから」

「大嫌いって、傷つくな」
黒須が苦く笑った。そういう表情も愛しいと思ってしまう。私はなんてバカなんだろう。

「私はもっと傷ついたよ。何の気持ちもないキスをされて」
黒須の表情が凍り付いた。

「ごめん」
「謝るって事は気持ちがないキスだって認めるんだ」
黒須が困ったように視線を彷徨わせた。

「ちょっとはある」
「ちょっとって何?美香ちゃんだけを愛しているんじゃないの?」
「それは……」
黒須が口ごもる。
ハッキリしない黒須の態度に腹が立った。

「出て行って。これ以上話す事ないから」
黒須に背を向け、荷造りの続きを始めた。

「春音……」
弱々しい声で呼ばれた。
もう振り向かない。もう黒須の顔なんか見ない。

「出て行って!」
強く言うと、立ち去る気配がした。
振り向くと、黒須の姿はなかった。

これが黒須の答えだ。
これ以上は引き止めてくれない。

私の気持ちに応えられないから。

これでこの恋は最後。
7年も黒須に片思いした。

長かったな、私の恋。