大嫌いの先にあるもの

事務所のドアを叩くと、意外な事に相沢さんの返事があった。

「失礼します」

中に入ると、机の前に相沢さんがいた。忙しそうにパソコンに向かっている。

今夜も青系でまとめたスーツがクールな感じがする。

「立花さん、どうしました?」

パソコンのモニターから私の方に視線を向けて相沢さんが言った。

「あの、相沢さんに聞きたい事がありまして」

「聞きたい事?」

「美香ちゃん、いえ、姉の事件の事で」

「昨夜、黒須から聞いたそうですね」

「はい。ただの強盗事件じゃない事を知りました」

「ソファにどうぞ」

相沢さんが机から立ち上がった。

前と同じように冷蔵庫からジュースを出してくれた。

今回もオレンジジュース。

ジュースの飲み口にストローを差してからくれた。その気遣いがお姫様扱いされているみたいで、照れくさい。

「いただきます」

ソファに腰を下ろし、ジュースを一口だけ飲んだ。

緊張で喉が渇いていた。

相沢さんも向かい側に座って、同じくオレンジジュースを一口だけ飲むと、テーブルの上に置いた。

眼鏡の奥の瞳と合うと、どうぞと促されたみたいだった。

短く息を吐き、テーブルの上に問題の茶封筒を置いた。

「見て欲しいものがあります」

相沢さんに差し出した。

「これを私に?」

「今日、おばあちゃんが私に持って来た物です」

相沢さんがハッとしたように息を飲んだ。

「拝見します」

丁寧な所作で相沢さんは封筒を開け、英語の文書と、黒須の写真を取り出した。