大嫌いの先にあるもの

なんで愛理さんが黒須と写っているの?
しかも抱き合ってキスしている姿で。

日付をもう一度見た。やっぱり美香ちゃんが亡くなる前の写真だ。
そんな前から黒須と愛理さんは知り合いだったって事?

――オーナーを好きになっちゃダメよ。圭介は私の物なんだから。

愛理さんに最初に会った時に言われた事を思い出した。
あの言葉の意味が本当なら、愛理さんは黒須の愛人?

でも、黒須は写真はでっち上げられたものだって言っていたし。

何をどうでっち上げられたんだろう?

わからない。
胸が痛い。

写真を見るまでは何があっても黒須を信じるつもりでいたけど、心が揺れている。黒須の言葉を本当に信じていいのかわからない。

「これであの男の正体がわかっただろ。バーは辞めなさい」

おばあちゃんが銀行の封筒をテーブルの上に置いた。

「これは何?」

中を見ると1万円札の束が入っていた。

「50万円入っているから、これでピアノの修理代を清算してお店を辞めてきなさい」

昨日、修理代の話もしちゃったんだ。

「いらないよ。自分で返済するから。それに30万円はもう返済したから、残りは20万円だよ」

おばあちゃんに返した。

「いいから持っていきなさい。残ったのは春音が使っていいから。友達の所にいてもいろいろかかるだろ?」

またおばあちゃんがテーブルのこっち側に置く。

「いらないってば」
「持っていきなさい」
「いらない」
「持っていきなさい」

10分ぐらい押し問答を繰り返した。

おばあちゃんがテーブルの上にお金を置いたまま立ち上がった。

「私は帰るよ。いらないならこのまま置いておきなさい」