大嫌いの先にあるもの

「それで戻ってくるんだろ?」

あんみつを食べ終わったおばあちゃんが聞いて来た。

「戻らない」

「じゃあ、あの男の店は辞めるだろ?」

「辞めない」

おばあちゃんが深く息をついた。

「昨日、話しただろ。あの男は悪いやつだって」

「おばあちゃんは誤解しているよ。黒須に愛人なんかいないよ。美香ちゃんだけを愛しているよ」

「あの男に何か言われたのかい?」

「直接聞いたよ」

「あの男の話を信じるのかい?」

「信じるよ」

さらに深くおばあちゃんがため息をついた。

「本当にバカな子だね」

おばあちゃんがリュックを開けて、ごそごそしだした。

「これを見てもそう言えるかい?」

おばあちゃんがA4サイズの茶封筒をテーブルの上に置いた。

中を覗くと英語で書かれた文書と、写真が出て来た。

黒須の写真だ。

タキシード姿の黒須が金髪の女性と抱き合ってキスしている。
写真にプリントされた日付は美香ちゃんが亡くなる前だった。

黒須の話を聞いていなかったら、私も怒る。

「おばあちゃん、この写真は本物じゃないよ」

「そう、あの男に言われたんだろう」

「違うよ。本当に本物じゃ……」

言いかけた言葉を引っ込めた。
よく見ると金髪の女性に見覚えがある。

今と髪の色が違うけど、これはBlue&Devilの歌姫、愛理さんだ!