昨夜は一睡もできなかった。

黒須から聞いた美香ちゃんの話が衝撃的だったのと、それ以上に心臓が飛び出そうになった出来事があったから。

あれは一体何?

黒須の顔が近づいて来て……それから……唇が……触れた。
思い出すだけで顔が熱い。

だってあの黒須が私にあんな事するなんて。
私は妹だったんじゃないの?

黒須はアメリカにいたのが長かったから、あんなの挨拶程度だった?
でも、挨拶で続けて二回もする?

全然、軽いキスじゃなかったし。
なんというか、二度目のやつは恋愛映画とかで見た事がある大人のキスだった。

大人のキス……。
なんか気持ち良かった。

って、何考えてるの。
こんな事考えていたら黒須の顔なんて見られないよ。

今朝は黒須が寝ている間に出て来れたけど、帰ったら顔を合わせる事になるんだよ。

こういう時どんな顔すればいいの?
何事もなかったようにする?

いや、出来ないよ。絶対に意識する。

誰か教えて。

「春音」

レジカウンター越しに声をかけられてハッとした。
今はレンタル店でバイト中。

「おばあちゃん」

目の前にはまた怖い顔をしたおばあちゃんがいた。