大嫌いの先にあるもの

Blue&Devilの事務所に行くと、相沢が帰る所だった。

「黒須、今何時だと思っているんですか?」

相沢が不機嫌な表情を浮かべた。

「午前3時丁度だな」

腕時計を見ながら答えた。

「もう帰りたいのですが」

「帰るって言っても同じビルの3階に行くだけじゃないか」

相沢はIファンドの隣に住居も構えている。

「わかった。じゃあ、相沢の部屋で話そう」

相沢がため息をつき、向かい側のソファに腰を下ろした。

「ここで聞きます」

リムレス眼鏡の縁を人差し指でくいっと上げ、相沢がこっちを見た。

「こんな夜更けに何の話があるんですか?」

「うん。実は……」

春音に美香の事件について話した事。それから春音が美香よりも僕と一緒にいる事の方が大事だと言ってくれた事などをかいつまんで話した。

「やっと春音さんの気持ちに気づきましたか」

「春音の気持ち?」

「前にも言ったでしょう。黒須に恋をしているって」

すっかり忘れていた。確かにガーデンパーティーの後に言われた。
あの時は本気だと思えなかった。

「本当に春音は僕の事が好きなのか?」

相沢が笑った。

「まだ信じられませんか?あなたはどれだけ鈍感なんですか」

「春音にはずっと嫌われていると思っていたから、その」

言いたい事がまとまらず悶々とした気持ちになる。僕は何に戸惑っているんだ。苛立ちのまま後頭部をかいた。

「人の心というのは言葉通りではないと前にも言ったでしょう。春音さんの場合は美香さんの事があってストレートに好きだと言えないんですよ」

相沢が出来の悪い生徒に教えるように静かに話し出した。

「美香の事?」

眉を上げ相沢を見ると、そこから説明しなければいけないのかと言わんばかりのため息をついた。