大嫌いの先にあるもの

「私も酷いよ。今の話を聞いて良かったって思ったもの」

「良かった?」

「美香ちゃんの電話を黒須がすぐに聞かなくて良かったって思ったの。だって、もし黒須が美香ちゃんの所に駆けつけていたら、美香ちゃんだけじゃなく、黒須も強盗に殺されていたかもしれない。だから黒須が電話に気づくのが遅くて良かったって思ったの。酷い妹だよね、私」

「春音……」

「美香ちゃんが助かる事よりも、こうして今、黒須と一緒にいられる方が私には大事なの」

美香よりも僕の事が大事だと言われているのか?

信じられない。

まるでこれは……好きだと言われているようだ。

――好きだよ、黒須。

いつかの春音の言葉が過った。
あの時感じた胸がしめつけられるような気持ちが急に溢れた。

春音が今、妹以上の存在に見える。

「酷いよね。美香ちゃんが聞いたら怒るよね」

大粒の涙が自分を責めるように焦げ茶色の瞳から零れ落ちた。

涙に濡れる春音が愛しい。

親指で頬に流れる涙を拭うと、正面から目が合った。

今、考えている事はどんなに愛しくても妹にするべき事ではない。

そう思うのに、目を逸らせない。

「黒須……」

薄ピンク色の唇がゆっくりと動いた。

僕だけの物にしたくなる。

胸の内側で抑えていた何かが弾けた。

次の瞬間、春音の後頭部を強く抱き唇を重ねた。