大嫌いの先にあるもの

美香が亡くなった日の事を話すと言ったが、本当に話していいのか迷う。春音が知っている事は美香が強盗に殺された事だけだった。それだけでも十分、衝撃的な内容だ。これ以上何かある事を話して、春音の心を傷つけないだろうか。

「黒須?」

黙ったままの僕を心配そうに春音が見上げた。

「美香ちゃんが亡くなった日、何があったの?」

「辛い話になるかもしれない。それでも知りたいか?」

「知りたい。私の事なら心配いらないから。もう大人だからちゃんと受けとめる。だから話して。真実が知りたい」

僕の心配する気持ちをわかってくれているのか。
確かに大人になったな。

ポンポンと春音の頭を撫でた。

「わかった。僕の知っている真実を話そう」

春音が真剣な表情で頷いた。

「あの日、美香が亡くなった日、僕のオフィスに美香から何度も電話があったらしくてね。僕にすぐに会いたいと言っていたそうなんだ。僕はその伝言を夕方まで聞く事が出来なくてね」

あの日の事は思い出すだけで胸が張り裂ける。僕のミスは美香からのSOSを受け取れなかった事だった。

「美香ちゃんの身に何かあったの?」

春音が考えるような表情を浮かべた。

「こっちにおいで」

春音の手を取って、立ち上がった。
そのままリビングを出て書斎に連れて行った。

春音に見てもらいたいものがあった。