おばあちゃんは黒須の話をして、よく考えなさいと言って今夜は帰った。

おばあちゃんが黒須を目の敵にする理由がやっとわかった。おばあちゃんの言った事が本当の事だとしたら、確かに黒須は酷い男だ。

でも、本当にそうなんだろうか。
本当に黒須は美香ちゃんを騙すような事をしていたんだろうか。

ちょっと前までの自分だったらおばあちゃんの言葉を疑う事なく信じるだろう。でも今は、黒須の事をよく知ってしまったから、おばあちゃんの話に違和感を覚える。

だけど、100%おばあちゃんの話が嘘だとも言えない。
黒須を信じたいけど、信じきれない部分もある。

怖いけど、黒須に確かめるしかない。
でも、黒須を目の前にして聞けるの?

帰宅すると、美香ちゃんのピアノの前に座って、ずっとそんな事を考えていた。
もうすぐで午前0時だ。

そろそろ黒須はバンドのメンバーとの打ち上げを終えて帰ってくるはずだ。

「日付が変わる前には帰るよ」ってバーで黒須が私に言ったから。

後5分で日付が変わる。
壁時計の秒針の速さが急に早くなった気がする。

このまま帰って来ないで欲しい。本当の事を聞くのが怖いから。

おばあちゃんの言った事が本当だったら、もう黒須とは一緒に暮らせない。今夜出て行く事になるのか、それとも残れるのか、黒須の反応で決まる。

「ただいま」

玄関の方で黒須の声がした。
緊張で鼓動が早くなった。