大嫌いの先にあるもの

「春音ちゃんのおばあちゃんなんですか?」

私の隣に立っていた宮本さんが話しかけた。

ステージを見る前におばあちゃんの視線が宮本さんに向いた。
多分セーフ。黒須の姿には気づいていないはず。

宮本さんのおかげだ。助かった。

「お宅様は?」

おばあちゃんが宮本さんに話しかけた。

「俺、いや僕は春音さんの上司というか教育係の宮本です。よろしくお願いします」

「そうですか。春音がお世話になっております。しっかりしているようでこの子ドジでしょ。皆さまに迷惑かけていませんか?」

「春音さんはよく仕事していますよ。いつも助かっています」

この場を切り抜ける為のお世辞だと思うけど、宮本さん言葉が嬉しい。

「もうっ、おばあちゃん、ドジは酷いな。はい、ウーロン茶」

おばあちゃんの前にグラスを置いた。

「いただくよ」

おばあちゃんがウーロン茶を飲んだ。

「こうしてジャズの生演奏がこの店では聴けるのかい」

グラスを置いたおばあちゃんが言った。

「うん。毎晩ライブはあるよ。プロだけじゃなくて、時にはお客さんがステージに上がる事もあって面白いよ」

「そうそう。オーナーもステージに出たりして……」

宮本さんがしまったという顔をした。
宮本さん、余計な事を……。

「オーナー?どんな人だい?」

興味深そうにおばあちゃんが言った。