大嫌いの先にあるもの

「宮本さん、黒須の居場所がわかったらすぐに教えて下さい。このお店が黒須の店だっておばあちゃんにバレたらまずいんです!」

「春音ちゃん、オーナーあそこじゃない?」

宮本さんがステージの方をゆっくりと指した。赤いドレスの愛理さんがいて、グランドピアノ前には黒タキシードの黒須がいた。

げっ。あんな目立つ所に。

今おばあちゃんが来たらまずい。

「どうしよう。宮本さん」

宮本さんの右腕をゆすった。

「どうしうようって言われてもね。ステージから引きずり降ろす訳にもいかないしね。きっと愛理さんにおねだりされたんだよ。今夜はタキシードまで着てるから、愛理さんのステージ全部つき合うんだろうね」

宮本さんが苦笑を浮かべた。

「えー、困る」

なんで今夜なの。あんなの見たら黒須の店だってすぐにバレて、ここで働けなくなる。

ステージを見ていると、黒須と視線が合った。その瞬間、ドキッとする程、素敵な甘い笑みを黒須が浮かべた。

そして、さらにウィンク。

それから『いつか王子様が』のイントロが始まった。

何、この甘ったるい感じ。笑顔もウィンクもピアノも甘すぎる。
生クリームにあんこ乗っけたみたいな、甘い物と甘い物を重ねたような感じ。

ときめいている場合じゃないのに、胸がキュンキュンする。
ピアノに向かっている真面目な感じの横顔が堪らない。奏でるメロディも今夜は甘い。

黒須の演奏ってあんなに甘かったっけ?
前に聴いた時は切なくて悲しい演奏だったのに。

黒須が魅力的過ぎて心臓破裂しそう。

あれを見てキュンキュンしない女性はいない。
今夜の女性客はみんな黒須に恋をする。
それぐらい魅力的で……

「春音ここにいたのかい」

えっ。

カウンターを見ると、おばあちゃんがいた。