目を開けると知らない天井があった。

寝ているベッドも自分の物じゃない。両手が伸ばせるぐらい大きくて、寝心地のいいベッドだった。

ホテルのスィートルームにあるような立派なベッドだと思った時、おそろしい現実が降りかかって来た。

ここは私の六帖のワンルームじゃない!

「おはよう。よく眠れた?」

部屋に入って来たワイシャツに黒ベスト姿の黒須を見て訳がわからなくなる。

掛け布団の中の自分の服装を確認すると、昨日着ていたTシャツとジーパンを着ている。裸じゃない。良かった。

「なんでここにいるんだろうって顔だな」

ベッドの端に座った黒須が微笑んだ。柔らかな朝日を受けたその微笑みは慈悲深い天使のよう。

いや、惑わされたらいけない。
物凄く優しく見えるけど黒須は悪魔だ。
悪魔みたいにいつも女性を魅了する。
昨日だって滝本さんが誘惑されてたし。
美香ちゃんが亡くなった直後も複数の女を連れ込んでいたような最低な男なんだ。

「なんでここにいるんですか?」

黒須がその質問を待ってたとばかりに嬉しそうに笑った。