大嫌いの先にあるもの

夜8時。Blue&Devilでのバイト時間になった。いつものようにバーテンダーの制服に着がえて、カウンターに入った。

宮本さんから連絡事項を聞きながら、店内をざっと見まわすと……

良かった。今夜は黒須の姿がまだない。
ニューヨーク市場での取引があるとかって言っていたから、まだIファンドにいるのかもしれない。

おばあちゃんの姿もない。
このまま来ないで欲しいけど、様子を見に来るって言ってたよね。
8時からバイトだって言ってあるからこれから来るのかな。

「春音ちゃん、挙動不審になっているけどどうしたの?」

宮本さんに話しかけられてハッとした。

「あ、えーと、知り合いが来る予定なので」

「知り合いって?友達とか」

「いえ、おばあちゃんです」

宮本さんが眉をあげた。

「それって大丈夫なの?春音ちゃんのおばあちゃんってオーナーの事嫌っているんでしょ?」

「なんで知っているんですか?」

「前にオーナーが言っていたから。奥さんの家族に嫌われているって。物凄く寂しそうだったよ」

バーで悲しそうにお酒を飲む黒須の姿が思い浮かんで、ズキンと胸が痛くなった。きっとおばあちゃんや私の言葉で黒須は沢山、傷ついて来たんだろうな。美香ちゃんは黒須が殺したんだって、酷い事を言った事もある。あの時はおばあちゃんの言葉を信じて、黒須だけが悪いと思い込んでいた。

子どもだったな。黒須の気持ちを少しもわかってあげられなくて。

今夜は私がおばあちゃんから黒須を守る。
絶対に二人を会わせない。