大嫌いの先にあるもの

「あの、私も今バイト中だから帰れないし」

「何時に終わるんだい?ここで待ってるから」

「えーと、その、ここのバイトの後もバイトが入っていて、全部終わるの夜11時を過ぎちゃうんだよね」

おばあちゃんがまたため息をついた。

「ここ以外でも働いているのかい?私は聞いていないよ」

「ごめんなさい。言ってなかった」

「何の仕事をしているんだい?遅い時間まで。まさかホステスとかしているんじゃないだろうね?」

「違うよ。ジャズバーでバーテンダーの仕事を」

「ジャズバー……」

おばあちゃんが考えるような顔をした。

「夜の仕事だね。バーテンダーって事は酒飲みの相手をするんだろ?」

「まあ、そうだけど。でも、お客さんはジャズを聴きに来ている礼儀正しい人ばかりだよ。絡まれた事ないし」

「どこにある店だい?」

「えっ、まさかおばあちゃん来るの?」

「当たり前じゃないか。どんな所で働いているかちゃんと見ないとね」

まずい。店に行ったら絶対に黒須と会ってしまう。

「おばあちゃんが来るような所じゃないよ。若い人ばっかりだし」

「年寄りはジャズを聴いちゃいけないのかい?」

「そういう訳じゃないけど……」

「それとも教えられないぐらいその店はいかがわしい所なのかい?」

「いかがわしくなんてないよ!伝統あるジャズバーだよ」

いかがわしいなんて言われて頭に来た。Blue&Devilはそんな店じゃない。純粋にジャズを楽しむ人たちが集まる所だ。

「だったら教えなさい」
「わかったよ」

そう言うしかなかった。