大嫌いの先にあるもの

「お姉さんは彼とよりを戻す気はないの?」

「えっ」

美香ちゃんの事、何て言えばいいんだろう。
急に胸が締め付けられた。滝本さんに嘘をついているのが苦しくて。

「春音ちゃん?」

目の前の滝本さんが歪んで見える。

「大丈夫?」

滝本さんが卓上のペーパーナプキンを差し出してくれた。
それを目元にあてて、涙を拭う。

嘘をつく事が後ろめたい。滝本さんにも美香ちゃんにも。

「ごめんなさい。踏み込んじゃったみたいね」

「いえ……私が悪いんです。自分で問題を複雑にしているんです。最初から好きになったらいけない相手だとわかっていたのに。私、姉が彼を連れて来た時から惹かれてしまったんです。会う度に彼の事が好きになって。好きになったらダメだって思えば思うほど惹かれていって……。だから、大嫌いだって思おうとしたんですけど、でも、やっぱり好きで……」

本当、バカ。取返しのつかないぐらい黒須が好き。
絶対に報われない恋だってわかっているのに。

「そっか。その彼の事、本当に好きなのね」

滝本さんが静かに言った。

「はい」

「それだけ好きだって思える相手に巡り合えたのも幸せな事だと思うわよ」

「幸せなんですか?」

「だって彼といる時、幸せでしょ?」

今朝、優しく頭を撫でてくれた黒須を思い出した。

「はい」

「じゃあ、きっと幸せな恋になるわよ」

滝本さんの言葉が胸に沁みた。