大嫌いの先にあるもの

「いいわね。それこそ恋ね」

滝本さんがまたテーブルを叩いた。

「滝本さん、興奮し過ぎです」

「あら、ごめんなさい。それで告白はしないの?」

「告白ですか……」

「そんなに好きだったら気持ち伝えたいでしょ?それに、その人も春音ちゃんの事好意的に想っていそうだし」

確かに黒須は私を好意的に想ってくれている。でも、それは妹としての私をだ。

「告白はできません」

「どうして?」

「彼は私をそういう対象に見ていないんです。もし私が恋心を持っていると知ったら、きっともう会ってくれません。私の気持ちは彼にとって迷惑ですから」

「なぜ迷惑なの?」

「それは何と言うか……、彼はまだ姉の事を愛していて、私は姉の付属品みたいな立場なので」

一緒に暮らしてみて、黒須が今でも深く美香ちゃんを愛しているんだなと感じる事がある。例えばそれはリビングにある美香ちゃんが使っていたピアノを愛情深い目で見つめている時や、黒須の携帯アラームが美香ちゃんがよく弾いていた『Lullaby of Birdland』だったりする事だ。

「つまりその彼が優しくしてくれるのは春音ちゃんがお姉さんとつながりがあるからって事?」

その通りだ。美香ちゃんとつながりがなければ黒須は私なんて気にもかけないだろう。

「まあ、そんな感じです」

「春音ちゃんは彼とお姉さんの間で板挟みになっているのね」

板挟みか。そうかもしれない。
思わずため息が漏れた。