大嫌いの先にあるもの

「黒須こそ、嫌じゃないの?こんな冴えない私と関係があるって」

「関係があるか。なんか際どいな」

黒須が苦笑いを浮かべた。

うん?何か変な事言った?

「際どいって何が?」

「この話はやめよう」

「どうして?」

「どうしてって……」

黒須が気まずそうに人差し指で鼻の頭をかいた。

「理由を言ったら春音にもっと嫌われそうだから言いたくない」

「嫌わないよ。何?」

「何って、それは……」

黒須が困ったようにこっちを見て、それから内緒話をするみたいに耳元で囁いた。落ちついた低い声が流れた。

「春音と体の関係があるみたいな言い方だって思ったんだよ」

か、体の関係!

「何言ってんの!」

黒須を見ると、思った以上に近くに顔があって、心臓が飛び出そうになった。
動揺のあまり、持っていた缶ビールを投げようとしたら手首を掴まれた。私より体温の高い長い指に掴まれて、さらに鼓動が早くなる。

「やっぱり怒るじゃないか」

私の手から缶ビールを奪うと、黒須が何でもない事のように飲み口に口をつけて……ビールを飲んだ。うそっ、信じらんない。

「それ私の!勝手に飲まないでよ。大事に飲んでたのに」

「今、投げようとしたくせに。ビールまみれになるのはごめんだからな。このワイシャツ気に入っているんだから」

ゴクリとまた私のビールを黒須が飲んだ。回し飲みなんて友達同士で普通にする事だけど、私が飲んだ物を黒須が飲むのは、なんか恥ずかしい。だってこれつて……その、間接キスっていうか……。

「春音どうした?顔が真っ赤だぞ」

「黒須のバカ」

勢いよく椅子から立ち上がった時、何かにぶつかってバランスを崩した。