大嫌いの先にあるもの

「どうしようかな。口止めされているしな」

宮本さんがこっちの様子を楽しそうに見てくる。

「意地悪ですね。その言い方」

「春音ちゃんが一生懸命で可愛いからいじめたくなるんだよ」

言われ慣れていない言葉に頬が熱くなった。

「か、かわいくなんてないです」

「顔、赤くしちゃって。そういう所が可愛いんだよな」

もう、赤いなんて言われたらどんどん顔が熱くなるじゃない。今夜の宮本さんは本当に意地悪だ。

「いじめないで下さい」

「ごめん。ごめん。お詫びに口止めされている事教えてあげるから」

「教えて下さい!」

「あそこに防犯カメラあるって最初の日に教えたよね?」

宮本さんがカウンターの上を指した。照明脇にカメラがある。カウンター内が見渡せるように設置されているらしい。

「はい。酔ったお客さんに絡まれたらカメラに向かって助けを求めて下さいって」

「あのカメラいつ設置したと思う?」

「バイト2ヶ月目の私が知る訳ないじゃないですか」

宮本さんが意味ありげに口の端を上げた。

「春音ちゃんが働く事が決まってからオーナーの指示で取り付けられたんだよ。どういう意味かわかる?」

「えっ、私が入ってから?どうして?」

「春音ちゃんにアルコールの入ったお客様の相手をさせるのが心配だったんだよ。しつこく絡まれてキツイ時あるしね」

「つまり、黒須が私を心配して防犯カメラを?」

宮本さんが大きく頷いた。

知らなかった。私の知らない所で気遣ってくれていたんだ。
こんなの不意打ち過ぎる。嬉しくて仕方ない。気を抜くと涙が出そう。

なんで黒須はバーにいないの?会いたくて堪らないのに。
同居する前はいつもいたくせに。どんなに逃げても帰りは必ず送って行ったくせに。

防犯カメラを付けるぐらい心配なら側で見ててよ。

ため息がこぼれた。

「春音ちゃん、オーナーを呼んでみる?」

宮本さんがまた意味深な笑みを浮かべた。