「今夜は休めば良かったのに。月曜日はこの通りお客さんも少ないし」

カウンター席にいるのは僕を入れて三人だけだった。これが週末になると20席、全てが埋まっている。

「引っ越しで疲れただろう?」

春音が「わーっ!」と急に声をあげた。

「引っ越し?春音ちゃん、引っ越したの?」

宮本君が会話に入って来た。

「うん。家に越して来た」
「オーナーの所に?」
「ちょっと、黒須!」

春音が僕の発言を止めるように言った。

「余計な事は言わない約束でしょ」
「そんな約束したかな」

春音の頬がもうっと膨れた。

「帰った方がいいんじゃないか?春音が僕の所にいるって広めたくないなら」

「ズルい。わざと言ったのね」

「心配してるんだ。相沢から話を聞いていたから。更衣室で泣いていたそうじゃないか」

「泣いてません」

「最後まで相沢に助けを求めなかったらしいな」

「別に困った事なんかなかったです」

「だから心配になるんだ。平気で嘘をつくから」

「嘘なんかついてません」

「意地っ張りな妹を持つと本当に心配になる」

「勝手に心配しないでよ」

「心配するよ。美香に頼まれているんだから」

春音が寂しそうな表情を浮かべた。

美香の名前を出したのは不味かったか?