大嫌いの先にあるもの

30分後、黒須と再びインテリアショップに入った。
鏡に映った私はさっきとは完全に別人になっている。

ボサボサだった髪は綺麗にまとまってるし、メイクもしている。だから黒須が選んだワンピもそれなりに似合ってる。足元はワンピに合わせた女性らしいデザインのヒールのあるサンダルまで履いている。

これが私?嘘みたいにお洒落だ。
トータルコーディネートって凄い。

「綺麗だよ」

鏡をじっと見つめる私に黒須が言った。

「綺麗じゃないよ。もう、見ないで」

恥ずかしくてそう言い返した。

「言ってる事がさっきと変わらないね」

楽し気に黒須が笑った。

さっきは服装が酷すぎて、黒須と視線を合わせられなかったけど、今は慣れない格好に戸惑い過ぎて、黒須の方を見られない。

「黒須様、いらっしゃいませ。今日はどういった物をお探しですか?」

黒スーツの中年女性が近寄って来て、黒須に声をかけた。左胸のネームプレートには『店長 高木』とあった。

「高木さん」と、黒須は親し気に店長の名前を呼んだ。

よく来るお店なのかな?

「実は家具をいくつか見たいんだよ。寝心地のいいベッドと、デスクと椅子、ドレッサー、それからソファに本棚もあった方がいいかな」

黒須が言った。

ちょっと待って。ベッドだけじゃなかったの?なんかいろいろ増えてるんだけど。

「かしこまりました。まずはベッドからご案内いたしますね」

黒須に抗議しようとしたら、店長が素早く歩き出し、あっという間に高そうなベッドが並ぶ展示スペースに連れて行かれた。