大嫌いの先にあるもの

黒須の顔を見たら、ほっとして涙が浮かんだ。
エレベーターを降りると、両手を広げた黒須に抱きついた。

会いたかったよ。
会えなくて寂しかったよ。

黒須にしがみついて泣いた。
黒須はポンポンって背中を叩いてくれた。

水曜日までいないはずなのに、どうしてここにいるの?
なんで私がピンチだって知っているの?
どんな魔法を使ったの?

聞きたい事は沢山あったけど、声にならなかった。

「春音、僕に会えたのがそんなに嬉しいの?」

いつもだったら否定するけど、今日は素直に頷いた。

「うん、嬉しい」

「そうか。よしよし」

骨ばった大きな手で、優しく頭を撫でてくれた。

初めて会った時も、握手代わりににそうやって頭を撫でてくれた。
あの時から黒須の大きな手が好きになった。

「いつまでそこにいるんですか。引っ越しの邪魔になっていますよ」

声をした方を見ると、黒須の部屋から相沢さんが出て来た。