大嫌いの先にあるもの

「あの、どうしてここに?」

ドライバーに聞いた。

「こちらに運ぶようにご依頼を頂きましたから。荷物を降ろしますから、お客様も降りて下さい」

「あっ、はい」

もう訳がわからない。

なんで管理会社のおじさんがこの場所を知っているの?

まさか依頼したのは管理会社のおじさんじゃなくて……。

「お客様、こちらです」

引っ越し屋さんに連れられて、エレベーターに乗った。

ボタンは5階が押されている。その階に住んでいるのは一人だけだ。

鼓動が早くなる。

やっぱり依頼したのは管理会社のおじさんじゃない。

私に内緒でこんな事をするのは一人しかいない。

私を驚かせるのが好きで、いきなり大学の先生になって現れたり、ガーデンパーティーに連れて行ったり、勝手に兄貴面して、留守の時も私の事を心配してくれる。

どんなに悪態をつこうと、側にいてくれる。

美香ちゃんがいない寂しさをわかってくれている。

ピンチの時はこうやって助けてくれる。

私の大好きな人だ。

エレベーターが開くと、両手を広げて、出迎えるように黒須が立っていた。

相変わらずやる事がキザ。

でも、大好き。