大嫌いの先にあるもの

日曜日。朝から不動産屋を回るけど、条件にあった物件は見つからない。あっという間に日が暮れ、バイトの時間になっていた。今日はDVD店で夜6時から12時の閉店までのシフトで入っている。

事務所に行くと仕事終わりの滝本さんがいた。

「春音ちゃん、住む所見つかった?」

心配そうに駆け寄って来て聞かれた。

「それがまだ」

頭をかきながら、あははと笑うと、滝本さんが「笑ってる場合じゃないでしょ」と私よりも深刻な顔をした。

「昨日から心配なのよ。うちに来る?」

「いいんですか?」

「一週間ぐらいなら置いてあげられると思う」

「でも、おばあちゃんがよその人ダメなんですよね?それに受験生もいるんですよね?」

滝本さんが困ったような笑みを浮かべた。

滝本さん、私の為に無理をしてくれようとしているんだ。
ありがたいけど、迷惑はかけられない。

「大丈夫ですよ。実は今日、不動産屋でいい話を聞いたんです」

「いい話って?」

「なんか住人がいる内は解体作業ってできないらしいんです。それに私がまだ立ち退きに合意をしていないから、このままいても大丈夫だそうです」

「本当に?」

「はい。今日、物件を探してくれた不動産屋さんが教えてくれました。結構、住人の権利って保障されてるらしいんです」

「そうなの。良かった」

滝本さんがほっとしたように息をついた。

かなり心配してくれていたんだ。滝本さん、いい人だな。