大嫌いの先にあるもの

「先週の月・水・土曜日、それから今日、私を見て素通りしましたね」

気まずくて素通りしました。なんて言えない。

「それは特に用事がなかったので」

「普通は挨拶ぐらいするのでは?」

「えーと、すみません。今度から気をつけます」

「注意しているのではないんです。理由を聞いているんです」

理由なんて言えないよ。困った。何て言ったら追及を止めてくれるんだろう。

「ですから、その、特に理由はなくてですね。あの、忙しかったというか、気を配れなかったというか」

相沢さんが切れ長の瞳を向けてくる。なんか迫力がある。思わずごめんなさいって謝りたくなる。そんなに見ないで。怖いよ……。

「どうしても言いたくないようですね」

相沢さんがため息をついた。

「まあ、いいでしょう」

追及止めてくれるの?思ったよりあっさりしてるんだ。良かった。

「ところで何かお困りの事はありますか?」

「えっ」

「心配ごとがあるんじゃないんですか?」

鋭い。どうしてわかるの?

驚いて相沢さんを見ていると、微かに口元が笑った。

「どうしてわかるのかって、顔してますね。さきほど更衣室で泣いていたのを聞いてしまったんです」

種明かしをするように相沢さんが言った。

ドア越しに聞かれていたんだ。みっともない姿を晒しちゃったな。

「助けて欲しい事があるのなら言って下さい。できる事なら何でもしますから」

相沢さん、無表情だけど優しい……。

「でも、私を避ける理由を言ってくれたらですけど」

うっ、その交換条件は酷い。相沢さん、意地悪だ。