8月。大学は完全に夏休み。貧乏学生にとっては稼ぎ時の夏が来たという訳だけど、私は今、窮地に立たされている。

「春音ちゃん、真っ青な顔してるけど大丈夫?」

レンタルDVD店の事務所で、おにぎりをかじっていたら、滝本さんが声をかけてくれた。

ヤバい。落ち込んでいる時の『大丈夫?』が心の深い所まで響いた。
滝本さんの平和な丸顔を見たら、涙が……。

「春音ちゃん、泣いてるの?」

滝本さんがパソコンデスクの上からティッシュを二枚取ってくれた。店長お気に入りの絹のように感触のいいやつだ。店長がいる時は使えないけど、今は滝本さんと二人きり。遠慮なく受け取って涙を拭いた。

「店長にいじめられた?」

隣に座ると、心配そうに滝本さんが聞いてくれた。

「違います」

「お客さんにセクハラされた?」

「違います」

「じゃあ、失恋でもした?」

「違います。あの、実は住む所がなくなるんです」

「そっか。住む所がなくなっちゃうのか。それは大変……えっ!」

滝本さんが勢いよくパイプ椅子から立ち上がった。

「それって物凄く大変じゃない。春音ちゃん、何があったのよ?」