大嫌いの先にあるもの

「パーティーで嫌な思いをさせてしまって、本当に申し訳なかった」

箸を置いて、黒須を見ると真面目な顔をしてた。

パーティーでの事、気にしてたんだ。悪いのは私だよ。急に帰ったんだもん。そう言いたいのに、言葉が出ない。言ったら妹だって言われてショックを受けた事も言っちゃいそうで。

黒須は気づいてる?妹って言葉に傷ついた事。

「あの日、僕のどんな言葉で春音が傷ついたかわからないが、本当にごめん」

良かった。気づいてなかった。

「春音が望むなら大学の講師は今期限りで終わりにするから」

嫌だ。辞めて欲しくない。
黒須の講義をもっと聞きたいし、こうして一緒にお蕎麦を食べたりもしたい。

大学で先生をしてる黒須も見たい。

この一年、大学にいる黒須を見るのは本当はそんなに嫌じゃなかった。
黒須の姿を見つけると、嬉しかった。遠くからでも、ただ見てるだけで幸せだった。

そう言いたいのに、言えない……。
言ったら、この恋が知られてしまいそうで怖い。

私の気持ちを知ったら黒須はきっと、もう会ってくれない。
二度と会えなくなるのだけは嫌だ。

はあ。

思わずため息が出た。

次の瞬間、黒須に抱きしめられた。

えっ、何?