大嫌いの先にあるもの

「このお蕎麦美味しいね」

目の前の蕎麦に手をつけた。
腰があってもっちりしてて、香りもいい。つゆもカツオ出汁が効いてて美味しい。きっといい鰹節使ってるんだ。

「さすが黒須のお気に入りのお店だね」
「蕎麦の話をして誤魔化すつもりだろ」

うっ。作戦がバレてる。

「答えづらいか?」

「質問の意図が見えないから」

「別に意図なんかない。ただ気になっただけだ」

「黒須はどうなの?16歳年上」

「ありえないと思うが、でも、わからない。年齢で好きになるもんじゃないから。物凄く魅力的な女性だったらありかもな」

「えー。黒須の16歳上って52歳だよ。めっちゃ熟女だよ」

「果物は熟した方がうまいしな。女性もそうかもしれない」

「それ本気で言ってる?」

黒須が声を立てて笑い出した。

「やっぱり本気で言ってないんでしょ」

「いや、春音が複雑そうな表情を浮かべたから。それが可笑しくて」

クックックッと拳を手元にあて、まだ黒須は笑い続けてる。

「私の顔で笑ってるの?ひどーい」

「春音といると自然と笑ってしまうな」

蕎麦を食べ終わった黒須がこっちを向いた。とっても優しい表情を浮かべてる。大学にいる時とは全然違う顔。バーにいる時とも違う。

そういえば美香ちゃんといる時の黒須は今みたいな穏やか表情を浮かべていた。

もしかして、気を許してくれてるの?

「この間はすまなかったな」

思い出したように黒須が言った。