大嫌いの先にあるもの

「いきなり何?なんでそんな事、答えなきゃいけないの?」

いくら黒須でもこれ以上は踏み込まれたくない。この恋心は秘密なんだから。

黒須が座卓に肘をついてこっちを見た。二重の切れ長の目からつき刺さるような視線を感じる。物凄く居心地が悪い。脇の下から変な汗が出た。

こっちも負けまいと睨むけど、黒須は私の態度に全く動じた様子もなく、ゆったりとした動作でまたほうじ茶をすすった。

沈黙が流れる。

一階から「いらっしゃいませ」と客を出迎えるおじさんの声が聞えてくる程静かだ。多分、二階にいるのは私たちだけなんだ。全く物音しないもの。

黒須はなんで黙ってるんだろう?まさか私の答えを待ってる?

「そういえば中学生の時、年上の人を好きになったと言ってたな」

思い出したように黒須が言った。
確かにそんな話もした気がする。

「その時は16才上の人を好きになったと言ってたよな?」

こっちを向いた黒須の顔が近づいた。目鼻立ちの整った顔がすぐそばにあってドキドキする。静まって心臓。ドキドキしちゃダメ。黒須に動揺してるのがバレちゃう。

「い、言ったけど、それがどうしたの?」

黒須から視線を外して誰もいない正面の方を向いた。
何もない空間がほっとする。

「今も同じなのか知りたい」
「なんで?」
「それは……」

黒須がため息をついた。

「不愉快だからだ」

うん?不愉快って何が?

「お待たせしました。ざるそばセットです」
黒須に質問しようとしたタイミングで、紺色の割烹着のおじさんが入って来た。