大嫌いの先にあるもの

視線を座卓に落とし、座面の細かい傷を数えた。意識し過ぎて黒須の顔が見られない。聞きたい事も沢山あるのに緊張で喉がカラカラ。思わず生唾をゴックン。思ったよりも大きな音がした。

ひゃー、黒須に音が聞えてたら恥ずかしい。
誤魔化すように慌てて、ほうじ茶を飲んだ。今度は冷たさに驚いて咽た。

ゴホゴホッ。咳が止まんない。
もう嫌だ。泣きそう。あたふたしてる所黒須に見られたくないのに、なんでこうなるの。

「春音、大丈夫かい?」
「……うんっ、ごほっ」
「慌てて飲むからだよ」
背中に大きな手を感じてハッとした。
いつの間にか黒須が隣に座ってた。優しく背中をさすってくれる。
嬉しいけど、すぐ近くで気配を感じてさらに鼓動が早くなる。

「落ちついた?」
全然落ち着かないけど、頷いた。
これ以上、黒須に構われたら心臓が爆発する。

前はここまで酷くなかった。顔を見て悪態をつくぐらいは出来てたのに、今日は黒須に動揺し過ぎだ。

黒須は自分の席に戻るかと思ったら、右隣に座ったまま自分でついだほうじ茶を飲みだした。

まさかこのまま隣にいるつもり?
右側をちらっと見ると大学で見た時と同じ不機嫌そうな横顔があった。私、何か怒らせたのかな……。さっきまではそんな顔してなかったのに。

「年上の男ってどう思う?」
コップを座卓に置くと、黒須が静かに言った。
「えっ、年上?」
「36歳の男って、春音の年でも恋愛対象になるのか?」

36歳の男って、黒須の事?ひょっとして私の気持ちバレてる?