大嫌いの先にあるもの

お蕎麦屋さんに入ると、この間と同じようにカウンター席はサラリーマンらしきおじさんたちで埋まってる。

「いらっしゃいませ」

カウンター奥の割烹着のおじさんに声をかけられた。

「あの、待ち合わせで」

おじさんは私の顔を見て、わかったように頷いた。

「二階にいますよ。この間と同じ席です」

良かった。まだいるんだ。

「ありがとうございます」

店の奥に進んで、赤絨毯が敷かれた階段を上がると、障子戸が並んでた。
この間は一番奥の部屋だった。

奥の部屋の三和土にはメンズ物の高そうな黒革の靴が置かれてた。
見覚えがある。黒須の靴だ。

「おいで」

三和土の前にいると、はっきりと呼ばれた。
黒須の声だ。

声を聞いた途端、鼓動が早くなった。
深呼吸してから障子戸を開けた。