大嫌いの先にあるもの

「これは学食でゆかちゃんを尋問しなきゃだね。私たちに内緒にしてた罪は重いよ」

若菜が大げさな感じで言った。
ゆかが慌てたような表情を浮かべる。

「付き合ったの最近だから」
「それでロスに行くの?」

さすが若菜。質問が鋭い。

「二人っきりじゃないよ。彼の友達も一緒だし。彼のグループの旅行に混ぜてもらったの」

「ふーん、カレのグループの旅行に混ぜてもらったんだ」

若菜が彼を強調して言うと、ゆかの頬がピンクになった。なんか可愛い。ワンピースも似合ってるし、恋すると綺麗になるって本当だ。

「が、学食行こう。席なくなるから、早く!」

ゆかに腕を引っ張られた。

このままの流れだといつものように学食ランチになってしまう。
それでもいいんだけど……。

お蕎麦屋さん……。

黒須……。

約束した訳じゃないし、ただ一方的に待ってるって言われただけだし、ゆかの彼氏の話聞きたいし、三人でいるの楽しいし……。

でも……黒須に会いたい。

一緒にいられる機会があるなら、一緒にいたい。

「あの、先生に呼び出しされてて」

この場を離れる為の嘘が咄嗟に出た。

「えっ、誰先生?」

若菜がくりくりの目を向けてくる。

黒須だって言ったらついてくるって言いそう。若菜もゆかも黒須ファンだからな。

「す、鈴原(すずはら)先生、ちょっと課題の事で」

所属するゼミの先生の名前を挙げた。

「じゃあ待ってようか?」

ゆかの言葉に焦る。

「先生の用事すぐ終わらないから、いいよ。若菜とゆかは3限あるでしょう?私は今日はもう終わりだから、先生の所行った後はバイトがあるから帰るよ」

「春音、もう帰るの?」

ゆかが肩透かしに合ったような表情を浮かべた。

「一緒に尋問しないの?」

若菜が引き止めるようにこっちを見た。

その視線が痛いし、なんか申し訳ない。だけど行かないと。

「ゆかの彼の話、今度聞かせてね。じゃあね」

二人に手を振ってから、エレベーター脇の階段を駆け下りた。