大嫌いの先にあるもの

「春音ちゃん、お疲れ様。試験どうだった?」

黒リュックを背負って教室から出ると、若菜に声を掛けられた。
若菜も一緒に講義を取っていた。

「なんとか粘ったよ。若菜は?」

「リーマンショックを書いたよ。春音ちゃんは?」

「私はプラザ合意。一番単純だったから」

「すごーい。よく覚えてたね。今回はノートも教科書も見られなかったから、プラザ合意は書けなかったよ」

「若菜こそ凄いよ。リーマンショックは要因がいろいろあって、私はまとめられなかった」

「春音、若菜ー!」

ゆかが私たちの前に飛び込んで来た。

この時間、ゆかは私たちとは違う講義を取っていた。

「今回のテストも終わったー」

ゆかが項垂れる。

「ゆかちゃん、バイトばっかでまた勉強してなかったんでしょ?」

若菜が厳しい視線を向けた。

ゆかが、あははと苦笑を浮かべた。

「だって夏休み、彼氏とロサンゼルスに行くからその資金を」

「彼氏!!」

若菜と同時に叫んだ。

彼氏がいるなんて話、初めて聞いた。しかも一緒にロスって物凄い急展開……。

「最近ゆかちゃん、女子っぽいコーデが多いと思ってたけど、やっぱそういう事か。今日なんてピンクのシフォンワンピースなんか着てるし」

若菜が冷やかすように言った。

言われてみればゆかの服装が変わった気がする。前はジーパンが多かったのに最近はスカートが多い。

「彼がこういう服の方が似合うって言うから」

ゆかが照れくさそうに頭をかいた。幸せいっぱいって感じだな。

彼か……。

黒須の顔が浮かんだ。

なんでこんな時に黒須が浮かぶの。違う、そういうんじゃない。黒須と恋人になりたいとかないし。

黒須は美香ちゃんの旦那さんだったし……。

だから、この恋は一生片思いで終わるんだ。