大嫌いの先にあるもの

再度、周りを確認する。
うん。誰もいない。良かった。

「もう昼だな」

黒須が腕時計に視線を落として、独り言のように呟いた。

もしかして無視?ちょっとその態度、ひどくない?これでも一応は義理の妹でしょ?それとも私が否定し続けたからその関係もなくなったの?

そりゃさ、黒須とはもう関係ないって言い続けたけどさ。
でも、急に関係ないって態度は冷たくない?

「あ、あの」

黒須がこっちを見た。キリッとした目としっかり合う。
無表情な視線が痛くて、言いたい事が言えない。なんか、胸も苦しい。
どうしたんだろう。黒須に見つめられてると思ったら、どんどん苦しくなってくる。何か言わなきゃ、何か……。

「あの……」

「僕がどこで昼を食べるかは知ってるね?」

大学の外にあるお蕎麦屋さんが浮かんだ。

頷くと、無表情だった黒須が微笑んだ。

いきなりそんな優しい顔するなんて不意打ち過ぎる。胸が熱い。

「先に行ってるから」

茶封筒を脇に抱えると黒須は教室から出て行った。

えっ?今のってどういう意味?

蕎麦屋に来いって事?