大嫌いの先にあるもの

「君が最後だ」

黒須の言葉に辺りを見ると、誰もいない。

試験は答案が書けた順に教室を出て行く事になってた。

みんな90分以内で書けたんだ。

「答案用紙を」

黒須がこっちに手を向けた。

なんとか結論までは書けたけど、見直しまではいってない。誤字脱字とかもありそう。渡したくない。でも、時間だもんね。

「はい」

渋々、答案用紙を渡すと、その場で黒須が文章を読み始めた。

えっ! いくら私しかいないからって、読むなんて……。

「よ、読むのは後にして下さい」

黒須が無表情にこっちを見下ろした。うっ、表情が冷たい。そんな怖い顔、今までされた事ない。怒ってるの?

「三行以上は書けてそうだな」

そう言って黒須が私の答案用紙を持って教壇の方に向かった。

何、今の嫌味?ひどーい。

「なんだ?」

答案用紙を大きな茶封筒に入れながら黒須が言った。

言い方が面倒くさそうに聞こえた。いつもと違う。いつもは私に声を掛けられたら、とりあえずは嬉しそうにしてくれてた。急にどうしたの?やっぱり私に怒ってる?

「黒須……なんか、怒ってる?」

しまった。大学では先生って呼ばなきゃいけないのに、つい、いつもの呼び名が出ちゃった。

誰もいないよね?