「相沢、笑ってないで教えろ。僕は何がわかってないんだ」

「簡単に答えを教えたらつまらないと思いませんか?」

相沢がゆったりとした動作で眼鏡を外すと、ハンカチで拭きだした。もったいぶったような態度だ。

「何が欲しい?」

「休みが欲しいですね」

「わかった。明日は休んでいい。だから教えろ」

「明日は元々休みですよ」

「じゃあ、明後日休んでいい」

相沢が眼鏡をつけてこっちを見た。

「オーナー、ありがとうございます」

「取引成立って事だな。それで春音の何を僕はわかってないんだ?」

相沢がじっとこっちを見る。

「恋心ですよ」

意外な答えが返って来た。どういう事だ?

眉間に皺が寄る。

そういえばさっき、春音は恋人がいると言ってた。相沢が言ってるのはその事か?

「春音に恋人がいる事を僕がわかってないと言ってるのか?それなら知ってる。さっき春音から聞いた」

相沢が瞬きをし、ため息をついた。

「本当に鈍い人ですね」

相沢が呆れたように笑った。

「僕が鈍いだと?」

「金融市場がどうなるかは読めるくせに、ご自分に好意を向けてくる女性の気持ちは相変わらず読めないようですね」

全く話が見えない。

相沢は何の事を言ってるんだ?

「春音さんは黒須に恋してます」