大嫌いの先にあるもの

「美香と約束したのは春音を本当の妹にするって事だよ」

焦げ茶色の瞳が驚いたように揺れた。

「だから美香が亡くなった後も僕は春音の事を妹として大事にしたいんだ」

「妹として……」

春音が視線を下げ、短く息をついた。急に元気がなくなったように見える。どうしたんだろう。

「血はつながってないけど、僕は春音の事を本当の妹だと思ってるから」

大事に思ってる事をわかって欲しい。

「美香ちゃんとそんな約束してたんだ」

トーンが下がった声で春音が言った。春音の表情も沈んでいくようだった。僕に妹だと思われる事が迷惑だったんだろうか。ここまで話すのはもう少し春音との関係を修復した後の方が良かったんだろうか。

「黒須が親切にしてくれてるのは妹だと思ってくれてるからなんだね」

春音が確認するようにこっちを見上げた。

「そうだよ。一生、春音の事を妹だと思ってるから。だからいろいろと心配になるんだ」

「大学の講師になるのはやり過ぎだと思うけどね」

春音が笑った。その笑顔にほっとする。妹だと思ってる事を受け入れてくれたんだ。

「春音と接点が欲しかったんだよ。完全に僕の事シャットアウトしてたから」

「本当にその為だけに大学に来たの?」

春音が呆れたように眉を上げた。

「まあ、そうだけど」

春音がため息をついた。

「じゃあ、すぐに辞めて。私は兄にそこまで干渉されたくないから」

春音の目つきが険しくなった。

「手もつながないで。兄と手なんかつなぎたくない」

春音が僕の手を振り払った。