大嫌いの先にあるもの

人のいない方へ進むと薔薇が咲き誇る庭園があった。
赤、ピンク、黄色、白と、鮮やかに薔薇が咲き、甘い香りが溢れている。

「綺麗。薔薇がいっぱい」

薔薇を見る春音の目がキラキラと輝いてる。
薔薇も綺麗だけど、嬉しそうにする春音の方が美しい。

「三田村夫人ご自慢の薔薇庭園だ。プレゼントを渡した時にここを教えてもらったんだよ。全部夫人が植えた薔薇らしい」

「きっと三田村さんはいい人だね。こんなに素敵な薔薇園を作るんだから。愛情を感じる」

「美香も夫人の事を優しい人だって言ってたよ」

「美香ちゃん、奥様に会った事あるの?」

春音が意外そうに眉をあげた。

「ニューヨークで一度、三田村夫妻とディナーを共にした事があったんだ。夫人と美香は気が合ったみたいで楽しそうに話してたよ。春音も後で夫人に会う?」

春音が頷いた。

「会いたい。美香ちゃんが優しいって言った人がどんな人か知りたいから」

美香の事が心から好きだって表情から伝わってくる。美香の事を分かりあえるのはやっぱり春音しかいない。

「いいよ」

春音の頭を撫でた。

春音がムッとしたようにこっちを見る。

「また子ども扱い?」

「だって子どもだろ?」

「もう子どもじゃありません」

「そう言うなら恋人いる?」

「こ、恋人……」

春音が狼狽えたように声を震わせた。

「恋を知らなきゃ大人にはなれないよ」

「何その理屈。わけわかんない」

「わからないと言ってる内は子どもだな」

クスクス笑うと、春音が気に入らなそうに睨んでくる。

「わ、私だって恋人の一人ぐらい……いるもん」

本当にいるのか?

この一年、大学で春音を見て来たが、そんな様子は全くなかった。